万年筆の始め方
万年筆は100年以上にわたって愛されてきた筆記具です。ボールペンがボールを転がしてインクを紙に押し付けるのに対し、万年筆は重力と毛細管現象を利用して、内部のインクタンクから精巧に成形されたペン先を通じてインクを導きます。その結果、より滑らかで表現力豊かな書き心地が生まれ、多くの人がその魅力に惹きつけられています。
万年筆に興味はあるけれど、選択肢の多さに戸惑っていた方へ。このガイドでは、自信を持って万年筆を始めるために必要なすべてを分かりやすく解説します。
なぜ万年筆なのか?
万年筆に惹かれる理由は人それぞれです。書き心地を重視する方もいます。きちんと調整された万年筆は、ほとんど力を入れずに紙の上を滑り、長時間書いても手が疲れにくいのが魅力です。環境へのやさしさに注目する方もいます。一本のペンが何十年も使え、詰め替え式なので使い捨てペンに比べてゴミも大幅に減らせます。
そして多くの愛好家にとって一番の魅力は、自分らしさの表現です。定番のブルーやブラックから、きらめくティール、深みのあるバーガンディまで、何千色ものインクが存在します。ペン先、インク、紙の組み合わせ次第で、ボールペンでは味わえない自分だけの筆記体験が生まれます。
万年筆の構造
万年筆の基本的なパーツを知っておくと、ペン選びやお手入れの際にきっと役立ちます。
図解:万年筆の主なパーツ
ペン先(ニブ)
ペン先は紙に触れる金属製の先端部分です。一般的にステンレスや金で作られ、細いスリット(切り割り)を通じて毛細管現象でインクを書き面に導きます。ペン先は書き味を左右する最も重要な部分で、そのサイズ、素材、形状が線の太さ、しなやかさ、滑らかさを決定します。
ペン芯(フィード)
ペン芯はペン先の下に位置し、インクの流量を調整する部品です。微細な溝とフィンが毛細管現象でインクタンクからインクを引き出しつつ、空気を戻す仕組みになっています。この絶妙なバランスのおかげで、インクがあふれることなく安定して流れ続けます。
コンバーター/カートリッジ
インクタンクはペン芯の後部に接続されます。カートリッジは使い切りのインク容器で、手軽ですが色の選択肢は限られます。コンバーターはピストン機構を内蔵した繰り返し使えるタンクで、好きなボトルインクを充填でき、何千色ものインクが楽しめます。
軸とキャップ
軸(バレル)はインクタンクを収納するペンの本体部分です。キャップは未使用時にペン先の乾燥や損傷を防ぎます。キャップにははめ込み式(スナップキャップ)とネジ式(スクリューキャップ)があります。ネジ式の方が気密性に優れますが、開けるのに少し時間がかかります。
最初の一本を選ぶ
最初の1本は、信頼性が高くてお手入れが簡単、毎日気軽に使える価格帯のものがおすすめです。良い書き心地を得るのに、高いペンは必要ありません。
価格帯別ガイド
$10以下: Platinum PreppyやPilot Varsityは、価格からは想像できないほど良い書き心地です。万年筆が自分に合うか試してみるのにぴったり。
$15〜$40: 初心者に最もおすすめの価格帯です。Pilot Metropolitan、Lamy Safari、TWSBI Ecoはどれも信頼性が高く、作りもしっかり。滑らかなペン先と十分なインク容量を備えています。コレクションが増えた後も、この価格帯のペンを一番よく使っているという愛好家は少なくありません。
$50〜$150: TWSBI 580、Sailor Procolor、Pilot Preraなどの中価格帯になると、素材やペン先の仕上げがワンランク上がります。ただ、$30前後の良いペンとの書き心地の差は劇的というほどではありません。
ヒント: まずは$15〜$40の範囲で1本選んでみましょう。ペン先の太さや重さ、グリップの好みなど、使ってみて初めて分かることがたくさんあります。ベテランのコレクターでも、一番よく使うのは$30のペンだったりします。
ペン先の太さ
ペン先にはいくつかの標準的な太さがあり、線の見た目やインクの出る量が変わります。
- 極細(EF): 非常に細い線が書け、小さな字や精密な作業に最適です。インクの消費は少ないですが、品質の低い紙だとカリカリした書き心地になることがあります。
- 細字(F): 普段使いやノートに人気のバランスの良い太さです。ほとんどの紙で十分に細く書けて、書き心地も快適です。
- 中字(M): 最も人気のある太さです。インクの色がしっかり出て、表情豊かな線が楽しめます。日記や手紙におすすめ。
- 太字(B): 太くしっかりした線で、インクの色が最も美しく映えます。インクの出が多いため、良い紙との相性が抜群です。安価な紙ではにじむことがあります。
標準的なペン先サイズのおおよその線幅
ヒント: 日本製ペン(Pilot、Sailor、Platinum)は欧米製ペン(Lamy、Pelikan、Kaweco)に比べて約1段階細い傾向があります。日本製の中字(M)は欧米製の細字(F)とほぼ同じ太さです。
万年筆のインク充填方法
インクの入れ方にはいくつかの方式があり、それぞれにメリットがあります。
カートリッジ
使い切り、手軽
コンバーター
繰り返し使用、回転充填
ピストン
内蔵型、大容量
アイドロッパー
最大容量
代表的な4つのインク充填方式
カートリッジ式
最もシンプルな方法です。使用済みカートリッジを取り外し、新しいものを差し込んで、インクがペン先に届くまで軽く押します。旅行時に便利ですが、インクの選択肢はそのブランドの製品に限られます(空のカートリッジにシリンジで詰め替える方法もあります)。
コンバーター式
コンバーターはカートリッジの代わりに取り付けて、ボトルインクから充填するための部品です。ペン先をインクに浸し、コンバーターのピストンを回してインクを吸い上げ、ペン先を拭き取ります。万年筆インクの世界が一気に広がり、長期的にはカートリッジよりも経済的です。
ピストン式
TWSBI Ecoなど一部のペンには、ピストン機構が内蔵されています。軸自体がインクタンクになっているため、コンバーターよりもはるかに多くのインクを保持できます。充填方法は同じ(浸して回す)ですが、一度に入るインクの量が多いのが特長です。
アイドロッパー式
最も多くのインクが入る方式です。軸全体をインクタンクとして使い、スポイトやシリンジで直接インクを入れます。対応するペンは限られ、漏れ防止にネジ部へシリコングリスを塗る必要がありますが、インク容量はダントツです。
基本的なメンテナンス
万年筆のお手入れは意外とシンプルです。ちょっとした習慣を身につけるだけで、何年も快適に使い続けられます。
- 定期的に使いましょう。 何週間も使わないペンは乾いてしまいます。毎日使っていれば、インクは滞りなく流れ続けます。
- 使わない時はキャップをしましょう。 ペン先の乾燥を防ぎます。
- インクを替える時は水で洗浄しましょう。 新しいインクに切り替える前に、透明な水が出るまでペンをすすいでください。
- 定期的に使うペンは月に一度洗浄しましょう。 同じインクを使い続けていても、月に一度のすすぎでペン芯の汚れを防げます。
- 万年筆用インク以外は使わないでください。 インディアインク、カリグラフィー用つけペンインク、アクリルインクはペンを詰まらせたり、傷めたりする原因になります。
重要: インディアインクやカリグラフィー用インクは絶対に万年筆に使わないでください。これらにはシェラックなどの結着剤が含まれており、ペン芯を永久に詰まらせます。必ず「万年筆用」と明記されたインクのみをご使用ください。
メンテナンスについてより詳しく知りたい方は、万年筆のメンテナンス&ケアガイドをご覧ください。
